忘れられた仏像が国宝へ・深大寺

国宝仏
深大寺の国宝仏「銅造釈迦如来倚像」(写真提供/深大寺)

深大寺の国宝仏「銅造釈迦如来倚像」(写真提供/深大寺)

関東(一都六県)に国宝仏は3点しかありません。1体は有名な「鎌倉の大仏さま」、もう1体は大倉集古館に所蔵されている「普賢菩薩騎象像」、そして2017年に国宝指定を受けた深大寺の「銅造釈迦如来倚像」です。近畿(二府五県)に142件の登録があることを考えれば少なすぎる数ですが、歴史的な経緯を鑑みれば十分な価値があるといえるのではないでしょうか。

現在、国宝仏はこちらの釈迦堂に

現在、国宝仏はこちらの釈迦堂に

飛鳥時代の仏さまが関東に

特に深大寺の所蔵する「銅造釈迦如来倚像」は飛鳥時代に作造された、いわゆる白鳳仏で大変貴重な仏さまになります。
白鳳文化の代表は、奈良の薬師寺で伽藍全体が飛鳥・平城京の姿を今に伝える宝と言え、これに新を冠した新薬師寺の国宝仏「銅造薬師如来立像(香薬師)」は、白鳳仏の代表格でしたが、昭和18年に盗難に遭い、現在まで所在不明となっています。これに奈良・法隆寺の観音菩薩立像(夢違観音)を加えた3体を「白鳳三仏」と称しています。
このことからも、深大寺が所蔵する白鳳仏の国宝「銅造釈迦如来倚像」がどれだけ貴重なものかがお分かりいただけるかと思います。私も、この仏さまが国宝に指定された時は、諸手を上げて喜び、webに記事をあげたほどです。

明治維新前は大師堂に匹敵する大きさがあった深沙堂

明治維新前は大師堂に匹敵する大きさがあった深沙堂

最初に祀られた神さまが名前の由来

現在、深大寺では、この白鳳仏のためのお堂「白鳳院」の建立を進めています。残念ながら、現在の社会情勢と物価高で思うように計画が進んでおらず、工事の着工が遅れているようですが、webでも寄進ができますので多くの人からの寄進が集まるとよいと思っています。
さて、この深大寺、歴史は古く733(天平5)年に深沙大王(じんじゃだいおう)を祀って創建されました。深沙大王とは乱暴に説明すると、「西遊記」に登場する沙悟浄のことで、この神さまの名前から深大寺と名づけられたようです。
もちろん、この一帯が豊かな水源地であり、この水を大事に思った人々によって水の神が祀られたわけで、今でもこの名水は「深大寺そば」を支える大事な要素となっていることは間違いありません。

これが角大師の姿

これが角大師の姿

何と言っても厄除け・元三大師

その後、比叡山(天台宗)から元三大師(がんざんだいし)を招いて祀り、その後は「厄除」のご利益の厚いお寺として全国に名前を知られることとなりました。
元三大師とは、第18代の天台座主・良源のことですが、角大師・豆大師とも呼ばれ、厄除け大師として大変有名なお坊さまです。「元三」の由来は、入滅が正月(1月)3日だったためで、また、おみくじを始めた人とも言われています。このお坊さまの角大師・豆大師とされる姿は有名で、皆さんもきっとどこかで見かけたことがあるかと思います。私も銀座のビルの入り口に角大師の姿守りが貼ってあるのを見て「さすが元三大師」と感心したことがありますから。

だるま市の様子

だるま市の様子

お坊さまの手による梵字入りだるま

深大寺は、厄除け行事のひとつとして、毎年3月3・4日に行われるだるま市が特に人気となっています。厄除け大師として名高い元三大師の大祭ですが、縁起物として境内には300余の縁起だるま店が連なり、毎年10万人以上の人が集まると言われます。
特に、だるまさんの目にお坊さまが梵字を入れてくれるというのは、深大寺ならではのことではないでしょうか。

山門横には清水が

山門横には清水が

縁結びとしてもしられたお寺

ところで、厄除けとして有名な深大寺ですが、深沙大王が祀られる由縁となった話から、縁結びの神さまとしても崇められてきました。
これは、開基である僧・満功の父と母の引き裂かれた仲が、深沙大王の加護により成就させたことによります。満功の父は、願いが叶えられれば、将来、一社を建て深沙大王を祀ると願ったのです。
お寺に伝わる古い話からすると、このあたりは湖にある小島だったようですね。

蕎麦守り観音

蕎麦守り観音

長く横たえられたままで

さて、国宝の「銅造釈迦如来倚像」には、数々の興味深いエピソードがあります。まず、このような歴史ある仏さまであるにもかかわらず、1909(明治42)年まで、元三大師が祀られていた須弥壇下にに仮置きされたまま放置されていたこと(江戸時代末期にお寺が火災で被害あって以来!)。再発見後、大変な仏像であることが判明して、数年後には旧国宝指定になるのです。
また、火災にあったため金でメッキが施されていたものがなくなってしまった──という説が少し崩れてきているという話などなどです。
それから、関東にこれほど大きな(像高83.9㎝)の銅製の仏像が残っているのか。実は、千葉県の龍角寺にも頭だけ白鳳仏という薬師如来坐像が残されています。この時期に、いくつもの仏さまを連れて関東へと渡ってきた有力者がいたことの証左だとする研究者もいるのです(この逸話は龍女話となります)。

鬼太郎茶屋

鬼太郎茶屋

深大寺は、その長い歴史の中で、何度も廃寺の危機に見舞われました。このため宗派が変わったり所蔵が不明となったりと困難な時代もあったようです。それでも、国宝となる仏さまを擁し、日本三大と言われるだまる市を続け、数年前からNHKの連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」のロケ地として深大寺周辺が取り上げられたこともあって、散策コースとしても人気のスポットとなっています。
特に関東にお住まいの方には参拝に訪れていただきたい貴重なお寺です。「深大寺そば」のお店も数多くあります。厄除けにも縁結びにも、また学業向上にもご利益満載のパワースポットといえると思います。

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